桜霞にゆれる坂道を、あの子が駆け上ってくる。 ツイと空を切って飛ぶ燕のように軽やかな身のこなし。 その姿は、まだ「御城」の白壁の向こう側。 淡い紅色のヴェールに包まれて濃紺の学生服が光る。 ―――おや、初めて見る子だね。 小柄なようだから新入生かな、それとも転校生? 元気そうな子じゃないか。 どこかでうわさ話が始まった。 ―――ふうん、あの子の目をよく見てごらんよ。 年輪を経た、穏やかな声。 ―――あの子の眼差しには、力がある。 純真なだけではない、何者にも動かしがたい意志を感じる。 まあ自分じゃ何もわかっちゃいないだろうが、な。 このさき、あの大きな瞳は何を映していくのだろうかね。 ―――そうだね、きっとたくさんのものを見て・・・。 あの子は自分の世界を創り上げていくんだね。 うらやましいよ。若いということは。 ふと気がつけば、風は南から。 新しい季節の始まりを喜び、鳶がひらりと高処を舞う。 ―――お、鹿鳴会の面々がお待ちかねだ。 思い切り遅刻だもんな、一喝されてもしかたない。 あれあれ大将までご登場だ! 我らが誇る、史上最強の会長どのだ。 校門の両脇に並び立つ、満開の山桜。 今、散りゆく最初のひとひらが、修学院の空に流れゆく。 そしてこのとき、2本の桜もいささか驚いた。 ―――あの子、ほんとうは女の子だったのか・・・。 (終わり) |
「桜ほころぶ倉鹿市・・・」 いるかちゃんヨロシクの冒頭部のこの言葉、 一体誰のセリフ? ずっと疑問に思っていたのです。 ひょっとして、桜だったのかもしれませんね? この発想の豊かさにやられた!と思いました。 長いあいだ修学院の生徒たちを見守ってきた桜に いるかちゃんはどんな風に映ったのでしょう。 そして、彼女を取り巻く鹿鳴会の面々、友人たち、 これから繰り広げられる様々なドラマを 桜たちはずっと見守っていくのですね。 タイトルの「across the universe」は The Beatlesの曲とのこと。 アルバム「Let it be」のなかに収録されています。 どこか懐かしく、ちょっと切なく。 桜の息吹につつまれているようなお話の雰囲気にぴったりだと思いました。 ほんの数コマだった情景が 目の前にぱあっと広がったよう。 「いるヨロを映画化したとして、タイトルロールに使うならこんな感じ」 とおっしゃっていましたので 桜もイラストではなく写真素材を使わせていただきました。 もったいなくも「10years」のお礼としていただいてしまいました。 ふうさん ありがとうございました♪ 水無瀬 |