anniversary (前)



師走に入ったばかりの里見学習院高等部図書館 午後八時半―――

 里見学習院は大学に併設されているため、生徒の約7割はそのまま大学に進学する。
名門で知られる里見学習院は大学もかなりの偏差値と競争率では あったが、高等部でそれなりの成績を修めていればほぼ希望者全員が進学できた。
内部進学者が「エスカレーター組」と呼ばれる所以である。
もっともさすがに 人気の高い学部は成績順に定員が決まっていたが。

 学習院へ進学しない残り三割は東大や京大といった国公立を目指すもの、音大や芸大といった特殊な大学を目指すもの、留学するもの、などである。

そんな受験生の利便を図るため、10月になると図書館は毎日9時まで開けられていた。
これも新生徒会の発案である。
閉鎖的だった体質の改善はこんなところ にも現れていた。
外部進学者も学校に気兼ねすることなく受験勉強できるように、との配慮である。
静まり返った空間は年末になって本格的な受験シーズンを前 にとがり 始めていた。

 一二年でこの時期にこんな遅くまで図書館を利用するものはほとんどなかったが、その中に一人、最もいそうにない人物―――生徒会副会長の如月いるかの姿 があった。


 結局一週間ほどで終わった家出ではあったが、期末試験前のこの時期の欠席は痛かった。
救いだったのはクラスメートの一子、桂、晶が全科目ノートを取って おいてくれたことだった。
きれいにまとめられたそのノートと、教科書、資料、参考書を机に積み上げているかは図書館の一角を陣取っていた。

こんなに真面目に勉強するのは、高校受験以来かもしれなかった。

 サッカー部の練習に出、生徒会の仕事もそれなりにこなし、そのあとここ図書館へ―――というのがここしばらくのいるかの行動パターンだった。
今回は春海 に迷惑はかけられない、いるかはそう決めていた。
春海にしても自分とほぼ同じだけ学校を休んで、しかもいるか以上に生徒会の仕事を任されているのだから、 これ以上春海に負担はかけたくないと思っていた。

 家出の顛末について、桂や一子は何かと聞きたい様子であったが、晶がそれを押しとどめていた。

いるかも今は何も聞かないでいてほしかった。

目前に迫った期末試験までに遅れを取り戻し、奇妙な具合に終わった家出の決着をつけること、今はそれだけだった。




 あの日の朝、春海と一緒に東京に帰ってきた。

春海はいるかを六段まで送ったが、家にはあがらずに帰っていった。

一人で大丈夫か、一緒に行こうかと春海は聞いたけれども、いるかはそれを断った。

青ざめた両親の顔、うろたえているお手伝いさんたち……
急に帰ってきたいるかに皆が泣いて喜んだ。

「私が悪かった……もうあんな話はなかったことにするから。」
父鉄之介はほとんど寝ていなかったのだろう、
いつもの若々しい表情がやつれ果てている。

「いいの……とーちゃん。
心配かけてごめん。
……その話、進めていいよ。」
「……え?だっておまえ……見合いがいやでとびたしたんじゃ……」
「そりゃそうなんだけど、もういいの。」
「……ほんとに、いいのか?」
「いいんだってば。
何度も言わせないでよ。」
「本気なの?いるか。」
「いいって……だってただのお見合いでしょ?何もすぐ結婚するわけじゃなし。」
「そりゃそうだけど……だけどね、いるか、外務大臣が中に入ってくださっている以上、お断りするのは難しいのよ。」
「わかってるよ、それくらい。
でも、会う前に断るわけにはいかないんでしょ?
だったら会ってから向こうの出かたを見るしかないじゃない。」
「それは……たしかに……」
「だから、会うよ。
ただし期末試験の後にしてよね。
これから一週間分の遅れを取り戻さなきゃいけないんだから。」
「……わかった。
そのようにお伝えするよ……おまえが家を出てたことはご存じないし……」
「そっか。
じゃあそうして。
あたし夜行で着いたばっかで眠いんだ。 お風呂入って寝るね。
じゃ、おやすみ。」
「お……おやすみ……」
あっけにとられている鉄之介と葵を尻目にいるかは自分の部屋へ上がっていった。


 あっというまに期末試験はやってきた。

いるかはいつもより少し緊張して臨む。
試験の結果など落第しない程度でいいと思っていたけれど、今回はノートを取ってくれたり教えたりしてくれたみんなの ために、いつもよりいい結果がほしい、そんな風に思っていた。




 期末試験が終わると二学期もそろそろ終わりである。

「おい、おまえ載ってんぜ。」
「え?なんに?」
「期末の結果だよ。
貼りだされてんぜ。」
「えっ、うそっ、そんなに悪かった?」
「バカ、逆だよ。
……行ってみな。」
巧巳に言われているかは廊下の人だかりができているところに向かった。

各教科の上位三十人と総合の上位五十人の名前が張り出されている。

春海は今回も総合トップだった。

いるかはそれを見て少しほっとした。

そして、総合43位如月いるか---いるかは自分の目が信じられなかった。

「おまえ、もう二三回家出しろよ。
そしたら春海に追いつけんぞ。」
いつの間にかそばに来ていた巧巳がからかう。

「ばか、何言ってんの……みんながノート取っててくれたおかげだよ……」
「いるかちゃん、やったじゃない!」
一子がぽんと肩をたたく。

一子は特に国語関係が得意で、総合でも毎回三十位には入っている。

どちらかというと理数系の得意な桂は生物で今回も九位をとっていた。

晶はそつなく全体的にいい点を取っているが英語はずば抜けてよくできる。

「がんばってたもんね。
いるかちゃん。
やればできるんじゃない!」
「あ……ありがと……みんな 。」
勉強と早起き以外でできないものはない---はずだった。

今でも勉強は好きではない。

それは確かだ。

確かだけれど、努力したことに結果がついてきたことは素直に嬉しいと思う。

それに……春海に少し近付いたような気がするのは、悪い気はしなかった。


「じゃ、明日。」
「ああ……」

 何気なく交わした挨拶に、今日は少しいつもと違うニュアンスが含まれている。

試験も終わり、久しぶりにいるかと春海は一緒に帰った。

部活のあと、生徒会の仕事を少し片付けて学校を後にしたのは6時過ぎ。

すでにとっぷりと日は暮れて、乾いた風が髪をゆらす。

家出から連れ帰ってきて数週間。

期末試験の忙しさにあっという間に飲み込まれてしまった形になって、ゆっくり話す時間もなかった。

二人になる機会がなかったわけではないけれど、彼女の態度はどこかこの話題を避けているようで、春海は口にすることができなかった。
かといって心を閉ざし ている風ではなく、むしろ以前より少し距離が近づいたようにさえ感じる。

まだそのときではない、彼女の表情はそう語っているようにも見えた。

放課後の生徒会室で書類に目を通している春海と、プリントの整理をするいるか。
このごろはいるかにしてはめずらしいほど生徒会の仕事をする。
いるかがこん な風にまじめでいるときはたいてい何かある。
巧巳は薄々感づいているようだが何も言わない。


 いるかが家を飛び出して、そのあとすぐ後をおって倉鹿へ行った。
それからのほぼ一週間、学習院内でどんなうわさが流れていたのか想像に難くはない。
ここ ではすぐ噂に尾ひれがつく。
いるか一人の家出がいつのまにか二人の駆け落ちになっていた。
噂には勝てない。
否定してみたところで火に油を注ぐようなもの だ。
春海にはそれがよくわかっていた。
いるかは友人たちにも家出の原因については黙っているようだったし、自分も進んで人には言うまいと思っている。
いず れ巧巳あたりにはつるし上げられるだろうが、今はまだそのときではないと思う。
そしているかもまた、噂を避けるように、沈黙を通していた。

 彼女が生徒会の仕事の後どこにいっていたのか、教えてくれたのは曽我部さんだった。
学年きっての秀才の彼も、間近に迫った入試のため時間いっぱいまで図 書 館で過ごしていた。
教科書やノートの囲まれて一心に勉強しているいるかはとても声がかけづらかったという。
周りのぴりぴりした空気がそうさせたのかもしれ ないが、真剣になったあいつは確かにそんなところがあるのかもしれない。
たぶん、彼女には自分のまだ知らない顔がいくつもあるのだろう。
普段の能天気な明 るさも無鉄砲なところも、もしかしたら彼女のほんの一部なのではないかとさえ思うことがある。
誰に対しても心を開くくせに、いるかの真実の姿はきっと誰に もつかめていない……そんな気がする。
そして今の、どこか張り詰めて緊張した面持ちの彼女も、間違いなくいるか自身であると思う。

 期末前の大事な時期 に休んでしまって、春海はいるかのことが気がかりでならかったが、逆にいるかのほうが春海の心配をよそにあんなにがんばっていたとは。
しかもいきなり43 位。
一学年8クラスで生徒数が300人強だから、まあ相当のものといえる。
やればなんだってできないことはない、その底力が春海には改めて脅威だった。
あ いつが真剣になったら、ほんと怖いよな……だが負けられないという気持ちはそれだけ春海にも強かった。
誰かが追いつこうとするなら、それだけ自分もが んばるだけだ。
なにをやっても人に負けなかった春海は、首位に立ちつづけることの困難さもよくわかっていた。
結果に満足して気を緩めれば、すぐ追い落とさ れる。
自分の中の甘さをよくわかって、つねにそれに打ち勝つよう努力してきたのだ。

 
 駅で別れたいるかの後姿を見送って、春海は結局何も話せなかったことに気付く。
だが、いるかには何か考えがあるようで、それは問いただすようなことでは ないような気がしていた。
あいつが何かをやらかすつもりなら、それでいい。
一体明日はどんなことになるのか、春海は試合前にも試験前にも感じたことのない 何かを感じていた。
おそらく今後の人生を決定付ける何かが、明日に控えていた。


 
◇◇◇◇


 振袖はごくごく淡い藤色の無地の越後縮緬に如月家の一ツ紋を入れて、鳥の子色の伊達襟と同系の山吹色の帯揚げに、正倉院文様の金糸の帯に朱鷺色や古代紫 で組みあ げた帯締めをあわせる。
帯の金色も派手なものではなく、やわかに光を添えるといったものである。

白を使わないのにどこか雪の結晶を思わせる、この季節らしい組み合わせをいるかは選んでいた。

華やかな刺繍の佐賀錦のハンドバッグに揃いの草履、柘植の簪には椿が彫られている。

バッグの華やかさがやや控えめな振袖によくあって、品よく全体がまとまっていた。

「あんたにしちゃ、上出来よ。」
振袖を衣紋掛けにかけながら、葵が言う。

見合いの席にどうしても振袖で行けと葵はがんばった。

いわく、いるかのように背の低い子は着物のほうがそれらしく見える、のだそうだ。

「 あたしも行けたらよかったんだけど……鉄之介さんがだめって言うのよね。
あちらはお父様しかいらっしゃらないからって……」
おそらく鉄之介の本心は葵が行ってはまとまるものもまとまらなくなるという心配から来るのだろうが、葵は心底心配そうだ。

「だいじょーぶだよ。
別にたいしたことないって。

てきとーに話してご飯食べてくるだけなんだから。」
「いるか、その言葉遣いは……」
「わかってるって。
ちゃんと丁寧な言葉を使うから。」
「まあ……お願いね。
くれぐれも失礼のないようにするのよ。」
「はいはい……じゃあ、お母様、お先に休ませていただきます。」
「……やっぱり変……おまえにそんな風に呼ばれると気持ち悪いわ。」
「あたしだってかなり気持ち悪いよぉ」
そういって二人は笑いあった。


「……かーちゃん、帯お願い。」
翌朝、振袖の伊達帯まで締めたいるかが葵を呼んだ。

「あら……上手に着れたわね。
帯はふくら雀でいいの?」
「ウン。
着物がわりとおとなしめだからね。
帯は華やかなほうがいいでしょ?」
「そうね、わかったわ。」
葵は外交官の妻という立場柄、外国人に着物を着せることもよくある。

そのため着付けはお手の物だった。

ふんわりとアップにした明るめの髪が柘植の簪でゆるくまとめられ、氷の襲とでも呼びたくなるような淡い色合いの着物とあいまって、どこから見ても清楚なお 嬢様といった様子 である。
派手さのない振袖は、かえって着慣れた印象を与え、趣味のよさ、品のよさを感じさせるものだった。

 姿見を覗いて、いるかはふと思いだし笑いをする。

着付けの仕方が、この前着たときとまるで違う。

自分で意識したつもりもないのに、いつのまにかやくざの姐さん風に着てたんだな、あの時は。
衣紋の抜き方や襟元の合わせ方も今日はまるで違う。


 いつも思うけれど、着物を着ると身が引き締まる。

今日は大事な日。

たぶん、今後の人生の何かが今日決まる。

鏡の中の自分を見て、自分に言い聞かせる。

(よっしゃぁ!気合入れてこっ!!)
清楚ななりと裏腹に眼に力がこもる。

きゅっと締められた帯に引き返せないという思いを新たにした。


「おや……きれいにできたね。」
リビングでTIMESを読んでいた父鉄之介が顔を上げる。

いつものやさしげな表情をそのままに、うまく緊張を隠している。

「うん。
……そろそろ時間?」
「ああ……もう準備はいいのか?」
「いつでも。」
「じゃ……行くか。」
「はい。」
行っていらっしゃいませと見送るお手伝いさんたちも、今日は心なしか緊張している。


一時という約束の15分前に着いたが、山本代議士とその息子、外務大臣はすでに来ていた。

型どおり相手に紹介されて、皆で席に着く。

いるかはまるで初対面のように節目がちに微笑む。

春海もそれに調子を合わせた。


 かつての宮家の別荘を改装してできたレストランは、今日は貸切ということになっていた。

穏やかな冬の日差しが窓から差し込み、薄いカーテンを通して庭の木々の影がゆらゆらとテーブルクロスに映る。

会話の邪魔をしない程度の音量でラモーのクラブサンが流れている。

食前酒にとシャンペングラスにKRUG が注がれる。

いるかは未成年だからとほんの少しだけ口をつける。

春海も半分ほど残している。


「今日は大人しいのですね。」
あたりさわりのない会話がしばらくつづき、柚子のグラニテが出てきたころ、いきなり話しかけられた。

春海の父、山本代議士が穏やかに微笑みながらいるかを見つめている。

いるかははじめて正面から彼を見つめた。

いかにも切れ者といった感じは春海に通じるものがあるが、ややきつい印象の目元を表情で巧く隠している。

ものの良さそうなスーツをことさらに主張することなく着こなして、自信にみちた表情はだれしもに畏敬の念を呼び起こす。

議員バッジをあえてはずしているところも自分に自信のあることの現れのようだった。

いるかはほんの一瞬、正面から見つめ返す。

油断のならない人物、しかもあの春海の父親。

今日は、この人に会うためにきたようなものだった。


「どこかでお目にかかっておりますか……? 今日が初めてだとばかり……」
いるかはいったん眼を節目がちにし控えめに答える。

「私は一度あなたをお見かけしているのですよ。
八月の駅伝大会の折に。

あなたはアンカーでいらした。」
あくまでもにこやかに答える。

「ほう、女の子がアンカーとは……」
「ええ……しかも誰よりも速かった。

私も私学連会長や里見学習院理事長と応援していたのですよ。

声援を受けて走る姿がじつに……その、チャーミングで。

この方なら是非息子に……と思ったのです。

集団にまぎれて走っていらして、アンカーだったということ以外、ほとんど何もわからなかったのであなたのことは秘書に調べてもらったのですが、そしたらお 父 君は外務省の方だという……
で、大学の先輩でもある大臣に仲人をお願いしたのです。」
「それは知らなかった。
そんな闊達なお嬢さんとは……
こうしていると本当に大和撫子そのものなのにね。

お着物がとてもお似合いだ。

如月君、さぞやご自慢のお嬢さんなのだろうね。」
「いいえ、そんなことは……」
口元がほんの少し緩む。
娘を誉められて嬉しくないはずがない。

「部活動は何かなさっているのですか?やはり陸上を?」
「いいえ陸上はあの時だけで・・でも跳んだりはねたりが好きなものですから
いまはサッカーを……それに小さいころから父や祖父の影響で剣道もやっております。」
「そうですか。
こいつも剣道は少々やるようですが……」
「確か山本君のご子息は野球もやっていたんだったね。

今年甲子園で優勝したと聞いているよ。」
「恐れ入ります。」
「というと……里見学習院に通っていらっしゃる?」
鉄之介は驚きをうまく隠しつつ聞き返す。

外交官という仕事柄、彼もまた心のうちを隠すことは巧みだった。

「はい。」
「野球は高校から?」
「いいえ、小さいころからやっていました。
中学でも野球部に入っていましたし。」
「中学から学習院ですか?」
「いいえ、中学は倉鹿修学院です。」
「……・・倉鹿……・修学院?!?!」
ガチャンッ……
鉄之介が持っていたナイフを思わず落とす。

「修学院……なのですか?」
「如月君、どうしたんだね?あわてて……」
「どうしたも……修学院は……私の父が……院長を務める学校で……」
「そうだったのですか。」
「そうだったのかね。」
「それに……・」
鉄之介はいるかのほうを見る。

けれどいるかは澄ましたまま運ばれてきたリ・ド・ヴォーにナイフを入れ、優雅なしぐさで口に運んでいる。

「いえ・・何でも。」
「・・?」
「……今でも、鹿鳴会は続いているのですか?」
落ち着きを取り戻して鉄之介は会話を続ける。

「ええ……ずっと続いていますよ。」春海が答える。

「懐かしいですね……私も中学高校は修学院でしたから。

鹿鳴会にも在籍していましたよ。」
「そうだったんですか。」
「今でもあの方法で?」
「ええ……たぶん変わっていないと思います。」
「なんだね、その鹿鳴会というのは。」
「いわゆる生徒会ですよ。
ただし少々風変わりな集まりでしてね。

選挙でなく、陸上競技の成績で役員、会長が決まるんです。」
「ほう。
それでは春海くんはやはり役員だったのかな?」
「はい……会長をさせていただいておりました。」
「三年間?」
「ええ……そうです。
僕一人ではない時期もありましたが。」
「会長が・・二人?そんなことは……きいたことがないな。」
「ええ、たぶん、これからもきっと出ないでしょう。
最後まで決着がつかなくて。

しかも相手は女の子でした。」
「女の子?」
「ええ……そうです。」
「それはそれは……こちらのお嬢さんに勝るとも劣らぬ人に違いないね。」
「……そうかもしれませんね。」
鉄之介は父、上野介の手紙でいるかが鹿鳴会の会長になったことを知っていた。

驚きは徐々に確信に変わっていく。

「春海……さんはいま何年生なのですか?」
「一年です。
今年入学しました。」
「そうでしたか。
……落ち着いていらっしゃるから
三年生か少なくとも二年生だろうと思っておりましたよ。」
「これは昔から面白味のないやつで・・」
「いやいや、なかなかどうしてご立派な息子さんじゃないか。」
「本当に、娘と同じ学年だとは信じにくいですね。」
「同い年だったんですか?」
「ええ……この子も今年入学したんです。里見学習院に。」
「里見……学習院?!?!?」山本代議士がこんどは驚いた。

「えっ……ということは……」
「二人は同じ学年です。」
鉄之介は言う。

「しかも同じ学校に通っている。
それに、この子は私が海外に赴任しているあいだ
倉鹿の父のもとに預けていたんです。

帰国するまでの一年半、倉鹿修学院に通っていました。」
「え……では……同じ……」
「そうです。

しかも私は父からの手紙でこの子が鹿鳴会会長になったことを知っています。」
「では……では……」
「それにお会いしたときから気になっていたのですが……
春海さんは家にいらしたことがおありですよね?……先日ちらりとお目にかかったと……」
「それでは……息子と、いるかさんは……」

一同の視線はいるかと春海に集められた。
 
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