カレーのルーさま作
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ルーさまの「青春のひとかけら」1234番記念にいただいちゃいました♪
春休みに入ったある日、春海が東京へ引っ越すことに、その手伝いをするべくいるかも少し手伝おうとやってきた。
「できるのか?」と春海に言われて思わず「失礼ね!」と頭に拳骨を一発食らわしたのは先ほどのこと。
でもいるか自身、食器類はさすがに割って数を減らしては申し訳ないと遠慮をし、その他の雑貨や衣類を片付けることになった。
春海は引越し屋とともに大きな家電の搬入をしている。
「いるかさん、それじゃここをお願いします」
家政婦の藍おばさんに指示され、服などを納める箪笥の中を綺麗にし、ダンボールの中身一つ一つを丁寧に入れてゆく。
「あ、いけない!これ、早く掛けておかなくちゃ」
あとわずかに残された荷の中にハンガー掛けをお願いされていたものがあった。
早くしないと皺になっちゃう
急いで中を開け、ハンガーに着せ、フックに次々と吊るす。
そして、このダンボールの最後の中身を取り出そうとしたとき、
「あ・・・これ・・・」
見つけたのは、一つの制服。
丁寧にクリーニングされビニール袋の包みの中に綺麗に畳まれていた。
忘れもしない、倉鹿修学院の額ラン。
懐かしい、というほど時が経ったわけではないけれど、最後にこれを着た姿を見たのは確か入試の日。
8ヶ月ちょっと前までは毎日のように見ていた。
東京へ帰ってからは2度見ただけ。
今でも鮮明に思い出せる、春海がこの制服を着た姿。
倉鹿は数え切れない思い出の眠る土地、そして修学院の制服はかけがえのない思い入れのあるものだった。
春海はこれを着て卒業したんだ、答辞を読み上げたって言ってた、見たかったな。
そう思った途端胸がキュンと締め付けられた気がした。
カサッと音がして気がつけば、いるかはビニールの包みを抱きしめていた。
おかしいな、これからまたずっといられるのに。
「いるか・・・・・・」
優しく低い声で呼ばれ後ろを振り返ると、部屋の入り口で春海が佇んでいて、ゆっくりとこちらに歩み寄った。
いるかは慌てていつもの元気さを取り戻そうと「ごめんね、ここ、早く終わらせるから」と笑顔を作るけれど、いつから見ていたのか春海はそのまま彼女を言葉ごとふわりと包んだ。
「お前が泣いてるのかと思った・・・・・・」
静かに口にした一言はいるかにとって当たらずとも遠からじで、素直に自分の気持ちを打ち明けた。
「この制服見てたら、すごく懐かしくて・・・いろいろなことがあったなって・・・・・・思い出してたの」
去年は離れるなんて思ってなかった、同じ学習院の制服を着て卒業すると思っていた。
けれど、卒業のときいるかは春海と同じ学校の制服を着ることはなく・・・・・・。
倉鹿を去る日、1年ちょっと使った修学院の制服を涙の滲む思いで箪笥の中にしまった。
その気持ちは春海も同じだった。
いるかと一緒に出来ると思っていた卒業。
別れは悲しく寂しかった。
が、結果的にはこれが良かったのかもしれないと、春海は思う。
そうでなければいるかとまた同じ高校へ行くということが夢で終わっていたのかもしれないのだから。
「高校では必ず・・・一緒に卒業できるから・・・!」
いるかを励ますように宣言するように、優しく告げる。
と、部屋へ近寄る人の気配を感じたのか春海は抱きしめた腕を解くと、茶目っ気に言葉を続けた。
「・・・・・・お前次第だけどな・・・?」
少々口の悪い彼の照れ隠しともとれる余計な一言はいるかにはムードぶち壊しの意地悪にしか聞こえず、
「なにおう!!絶対に大丈夫なんだから!!」
怒ったいるかは勢い余って啖呵を切った。
が、直後いるかが心の中で「たぶん」とつけたのは、あの名門校へ合格したのが『奇跡だ』と自分でも信じられないと思っているからなのだろうか。
「じゃ、お互いに頑張ろうな!!」
「うん!!」
二人は未来への誓いをひとつ立てた。
「お兄ちゃ〜ん!!いるかちゃ〜ん!! 引越しのお蕎麦がきたよ〜!!」
「ああ、今行く」
遠くから聞こえる弟、徹の呼ぶ声に春海は答えた。
いるかは・・・春海が返事を言い終える前に「え?お蕎麦?!」とさっきまでの雰囲気を吹き飛ばすような軽い足取りで先に向こうへパタパタとスリッパを鳴らす。
-----いるかがさっきマイナス思考だったのはハラが減っていたからかもしれない・・・・・・。
春海はいるかの後姿を見てなんとなくそう思った。
end
私は制服というものを着たことがありません。
そんな私にとって修学院、学習院の制服はまさに憧れの的でした。
特に修学院の学ラン。
春海たちの凛々しい姿には今でもどきどきしちゃいます♪
「いるかちゃんの一日」でルーさんの描かれるいるかちゃんたちは
まさに倉鹿修学院再び!というもの。
大好きだった彼らが再び制服姿で目の前に現れてくれたようでした。
そんなわけでルーさんにお願いしたお題は「制服を脱ぐ日」。
着ることのかなわなかった制服への憧れとそれにまつわるさまざまな想いをちょっと味あわせていただきたくて(笑)。
われながら意味深な(笑)・・・と思いましたが
ルーさんらしくあたたかく甘くちょっぴり切ないお話を書いていただいちゃいました。
一緒に迎えることのなかった卒業式。
聞くことのできなかった春海の答辞。
これからは一緒にいられる、けれどその代償として奪われていた数ヶ月のことを思っているかちゃんはほろりとする。
春海もそんな彼女の様子に気づいてそっと抱きしめる。
いるかちゃんは春海の制服を抱きしめることによって、春海はそんないるかちゃんごと抱きしめることによって、二人は大事な思い出を一緒に心に閉じ込めたのかしら。
これから始まる新しい生活に向かって一歩踏み出したのかしら。
ルーさん
素敵なお話をありがとうございました!
2004年1月25日 水無瀬
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