青い空さま作





はじめての想い




東京に帰って来た。
知らず知らずため息が洩れる。
新学期。



「いるか、週末、家に遊びに来ない?」
同じ顔をした、従姉妹のかもめが声をかけてきたのは、新学期二日目のことだった。

「昨日の夜、母さんが、久しぶりにいるかの顔みたいねってさ、
泊まりにくればいいよ」
「…そうだね。遊びに行こうかな。母ちゃん達に聞いてみるよ」
かもめは、何か別に言いたそうなそぶりをしたけど、何も言わなかった。



かもめの家は、東京を離れる前と何も変わっていなかった。
かもめの両親も昔通り、何も変わっていない。



みんなでの食事が終わり、いるかはかもめの部屋で、就寝の準備を始めていた。
布団に潜り込みながらも、かもめは話し続ける。

「それでさーー 琢磨がね…」
いるかは、相槌だけの返事を返す。

「いるか、元気ないね。話も聞いていないし…」
「えっ、き、聞いてるよ。琢磨のことだろ」

かもめは大きくため息をつき、
「山本くんの話をしようか?」
「えっ! 何言ってんのよ!」
いるかは、耳まで赤くなり、俯いてしまった。

「よく、帰ってきたね。おじさん達が帰って来るって聞いた時、
いるか、帰って来ないんじゃないかと思ったんだけど、帰って来てくれてうれしいよ」
かもめは、遠くを見る目をして話を続けた。

「でも、いるか、こっちに帰って来てから、ため息ばかりで、人の話も上の空だし、
みんな心配してるんだよ」
いるかは俯いたままなにも言わない。

「気持ちはわかる。なんて言わないよ。
私は琢磨と離れたことないし、上辺だけわかってもなんの慰めにもならないでしょ。
いるかが、そんなに落ち込んでても何も始まらないんだよ」
相変わらず、下を向いたままのいるか。
かもめは体の向きを変え、正面から、いるかに向き合った。

鏡のようにそっくりな二人。

「私ね、別れるの嫌だった。倉鹿に行って、みんなに会って…
はじめは早く東京に帰りたくて、そればっかり考えていた。
けど、だんだん、向こうにいるのすごく楽しくなって、
すごく、楽しくて、ずっと続けばいいと思っていた」

「でも、頭の中で、それは無理なことなんだって、
父ちゃん達が帰ってくるまでの時間しかないって、ずっと…わかっていたはずなのに
…」
うっすらと涙を浮かべ、言葉を途切れさす。

「私、ちゃんとお別れ言えなかったんだ。言いたくなかったんだ」

かもめは、そっといるかの頭を抱き、
「私は、いるかに会いたかったから、帰って来てくれて本当にうれしかったよ」

「ところで、いるか、あんた、お別れ言えなかったって、山本くんにも?」
いるかは再び、耳まで赤くなり、かもめを引き剥がした。

そして、上体を起し、体操座りの姿勢で、
「は、春海は、あの… …言わないとダメ?」
「ダメ!」

一瞬目を閉じ、おでこを膝につけるような体制をとったが、
すぐに顔を上げ、ゆっくりと話しはじめた。

「黙って行こうとしたんだ、最後まで、黙って行くつもりだった。
そしたら、徹くん、春海の弟なんだけど…、ばれちゃって、駅まで追い掛けてきた。
春海は徹くんをを追い掛けて来て…、駅で…、最後に会えた」

「それで?」
「私、言い訳の言葉しか出て来なくて、お別れの言葉なんて言いたくなくて」
言葉を途切れさせる。

「もう、時間がなくて、ドアも閉まちゃてて、
春海は…、…『東京の高校に行く』って、言った」
真っ赤な顔をしたいるかは、話し終えた。

かもめは、笑みを浮かべ、
「じゃ、あんたも頑張りなよ。同じ学校行きたくないの?」

満面の笑みのかもめ。
いるかは、はじめ彼女がなにを言っているのかわからないような素振りをしていたが、
「別れたわけじゃない、終わってないでしょ?
山本くん、東京にくるって言ったんでしょ?
東京の高校に入るって、じゃ、あんたが頑張って勉強してさ、
同じ高校に入ればいいんじゃない?」
言うは易し、でも、いるかは、

「ごめん、かもめ、今日は帰るよ! じゃ、」
急に立ち上がり、パジャマのままドアを蹴倒すように出て行った。

階段の下では、かもめの母が、電話をかけていたが、
「おばちゃん、やっぱり帰るね」
と、一言を残し、玄関から飛び出していった。



「今のいるか?」
電話の相手は、いるかの母葵だった。

「えぇ、今、帰って行っちゃったみたい」

「元気になったようね。
倉鹿から帰って来た時は、別人かと思うぐらい、に大人しかったけど」

「でも、いるかちゃん、綺麗になったんじゃない?
雰囲気が少し変わった気がしたけど」

「えぇ、少しね。向こうで何かいいことあったんじゃない?
きっとこれから私に似て美人になるわよ」

「自分で言わないの!」



母親達の会話が終わらない間に、いるかは家に帰り付くことだろう…















青い空さんの新作は
いるかちゃん&かもめちゃんのお話でした。
何から何までそっくりなこの二人、
原作ではあまり出てきませんでしたけど
物語の設定としてはとっても美味しいと思うんです。
瓜二つなことを利用して
あーんなことやこーんなこと(笑)をしてほしかったなぁと
今になって思います。

いるかちゃんの倉鹿を離れたことへのつらさを
春海と同じ高校へ行くという夢に転化させたかもめちゃん。
えらい!
そうそう、いつまでも暗くなっているのはいるかちゃんじゃない!
またひとつ夢を見つけて
元気で前向きないるかちゃんに戻っていくのですね。
やっぱりこのふたり、いとこで幼馴染で
お互いのことをとってもよくわかっているんだなーと思いました。

背景にはちょっとかわいらしい星空を。
女の子二人のパジャマパーティーの雰囲気を出したくて選んでみました。
都心ではあまり星は見えないでしょうけど
空の向こうには本当はいくつものきれいな星が輝いているんだよね。
いるかちゃん、がんばれ〜♪

今回もかわいいお話をありがとうございました♪

水無瀬

★HOME★