青い空さま 作


霧が晴れたら



中学剣道選手権全国大会が終わって、修学院のみんなとかもめの家に行った。
一応、お別れの挨拶等をするつもりだったのだけど、
…集まったら、同窓会のようになってしまった…
先に六段中のみんながかもめの家に来ていて、歓迎してくれた。



「いるかちゃんが帰って来た時、二人ともぎこちなかったけど…
もとに戻ったって感じ…」
「やっぱり、いるかとかもめはこうでなくちゃ!」
口々にうわさする。
みんなの態度が言葉が心地いい。
何より、かもめと琢磨がそろって笑っている。



「いるかー ちょっといい?」
頃合を見計らったのか、みんなが騒いでいる中、かもめが耳打ちして来た。

二人で部屋を出る、視界の先に春海の姿が映り、一瞬目があった。

みんなから少し離れた、かもめの自室に通された。
そこは東京を離れる前と何ら変わった様子はない、昔から慣れ親しんだ匂いがした。

「あのね、いるか。私、琢磨のこと好きだよ。…もう、ずっと前から…」
『気付かなかったと思うけど』 かもめは少し肩を竦めて照れたように笑った。

私はその言葉を聞いた時、うれしいような、
でも、幼馴染みの二人がどこか遠くに行ってしまうような、少し寂しい気がした。

「うん…」
一言だけ返事をした。

「あんたは、山本君のこと好きなんでしょ」
急に自分のことにふられて、耳まで赤くなるのがわかった。
「な、なにを、き、き、急に!!」
「山本君もいるかのこと、…好きなのよね」
『見ていてわかったよ』とさらりと言ったかもめ。
私は頭が爆発しそうな程、自分でも恥ずかしいぐらいに、狼狽えてしまった。

「し、知らないよそんなこと」
「そんなことって… 何も言ってないの? 言われたことも? 
まぁ、いるからしいと言えるけど、大事な気持ちは伝えなくちゃダメなんだよ。
…やっぱり」
最後の方は自分に言い聞かすように言った。

「でも、もういるかは当分帰ってこないだろうし、こっちのことは私に任せてね。 
それから、いるかがまだなら…、この勝負は私がもらうよ!」
昔と変わらない、かもめの笑顔があった。

「かもめー いるかちゃん? そこにいるの?」
ドアからひょっこり顔を出した琢磨、私達の様子を見に来たのだろう…
琢磨の後ろには春海の姿があった。

かもめは琢磨の方に向き直り、一呼吸おいて、
「琢磨、ちゃんと言っておくね。私、琢磨のこと好きだよ」
その場にいた、かもめ以外全員が赤面した。

琢磨にいたっては、
「か、かもめ、急に何?」

心底驚いたふうで、顔を赤くしたまま、その場からかもめを連れ出した。

残ったのは私と春海。
頭の中にはさっきのかもめの言葉がくり返していた。

『大事な気持ちは伝えなくちゃダメなんだよ』

春海は少し吐息を尽き、ほんの一時をおいて、手を差し出した。
「…行こう。みんな待ってるよ」

まだ… また…  そんな言葉が頭の中を舞う。今はこのままで…





青い空さんからいただきました。
かもめちゃんはもしかしてずっと琢磨君のことが好きだったのかもしれないとおっしゃって、たしかにそうかもなと思いました。
彼女の「男嫌い」はあまり男らしくない琢磨くんを気遣っての反動だったのかもしれないですよね。
男らしい男の子は嫌い、って遠まわしにあんまり男の子らしくないあなたがすきって言っているようなものですもん。
なかなか素直になれなかったのはいるかちゃんと似ているけど
かもめちゃんのほうが少しだけ、頑なな態度と心を改めるのが早かったのね。
思いが通じ合っているはずなのにちょっとぎこちないいるかちゃんたちにはいい刺激になったのかな(笑)

原作で武道館編のラストを締めくくるのは
三人が一緒に野原で遊んでいるシーンでした。
東京の都心部にはなかなかこんな場所はないかもしれないけれど九段の北の丸公園なら、ひょっとして(笑)?

子供の目には空はどこまでも遠く
緑はどこまでも果てしなく。
走っても走っても届かない
手を伸ばしても伸ばしても触れない。
大事な子供時代を一緒に過ごした三人だから
これからもぜひ仲良くね、といってあげたいです。
春海も加わって、いつか四人でまたそんな景色に出会えたらいいね、
そんな思いを込めてレイアウトさせていただきました。

水無瀬
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