Love Love Love 「ねぇ、いるか。勉強大変だと思うけど、今日ぐらい山本君に電話してみたら?」 友達とのクリスマスパーティの帰り、かもめは何気なくそう言った。 「本当は、私達につき合うより先に、電話しないといけないんだろうけど、ね」 それじゃ、私達こっちだから… 琢磨と手を繋ぎ闇の中に消える。 1時間だけと自分に言い聞かせ、参加したクリスマスパーティ。 途中から入って、始めから参加していたかもめ達と連れ立って帰って来た。 タマの息抜きと、思っていたのだが、街のきらびやかな雰囲気が、 心の中に空いた穴に風を吹かせる。 一人の帰り道、見上げる空はどんよりと重い雲に覆われていた。 星一つ見る事はできない。 「雪、降りそう… 降ったら、明日はホワイトクリスマスか…」 「ただいま」 玄関を入ると受話器を持った母が、声をかけてきた。 「あっ、ちょうど今帰ってきたみたい。いるか、あんたに電話よ」 相手も告げずに受話器を渡された。 今は誰とも話したくない気分なのに… 「もしもし、変わりました」 早く切りたい、そういう気持ちが、声を無愛想にする。 「いるか?」 電話の声は… 「えっ! 春海? どうして?」 「クリスマスパーティだったのか?」 「えっ、あっ、うん。ちょっとだけ顔出した」 クリスマスパーティのことは母に聞いたのだろう… 『もぉ、かあちゃんも、余計な事言うンだから…』 気のせいか少し不機嫌そうな春海の声。 「勉強、どうだ? 進んでるか?」 「あっ、うん。大丈夫! 家庭教師の先生にも、もう少しって言われたんだよ」 「気を抜くなよ」 「…うん…」 会話の間の沈黙が苦しい。 「あっ、あのね。電話しようと思ってたの」 「俺にか?」 「うん。声聞きたかった…」 「…いるか、…今、少しだけ時間いいか?」 「えっ?」 「少しでいいんだ、外に出てきてくれないか? お前の家の近くの公園の電話ボックス。来てほしい」 「そこに、春海?」 返事を聞くまでもなかった。 そのまま受話器を置き、台所の母に『少し出かける』と声をかけ、家を飛び出す。 今までで、たぶん、一番早く走った。 今、ストップウオッチがあれば100m10秒切るかも… 目に入ったのは、外灯に照らされながら電話ボックスに寄り掛かり、 空を見上げる彼の姿だった。 彼の吐く息が白く、漂う。 「春海…」 私に気付き、少し笑いながら、 「相変わらず、早いな」 「どうして、いつから来てたの?」 息を切らす事無く、聞く。 「逢いたくて…、 邪魔にならないように、遠くから、少し顔を見て帰ろうと思ったんだけど、 クリスマスパーティに行ったと聞いてね… 少し、腹が立った」 言葉とは裏腹の、以前と変わらない、春海の笑顔。 「ごめんね…」 少し前の私ならきっと、うれしくて抱き着いていた。 でも、今は、何故かそれが出来ない。 身の置きどころがない、そんな感じ… 電話ボックスに一緒に寄り掛かりながら、 途切れがちの会話は、意味の無いものばかりだった。 腕が触れるか触れないかの距離。 「雪、降りそうだな…」 「…うん」 「次に会えるのは、試験の日だな…」 「そうだね…」 「送って行くよ…」 「えっ、いいよ。私が駅まで送って行く」 その方が、少しでも一緒にいれる。 ほんの少しだとわかっていても、少しでも長く一緒にいたい。 「おまえな、一応、女なんだから…」 「でも、その方が…」 春海の腕が伸び、私を捕らえる。 長い時間外気にさらされていた、春海のコートは冷たく、 頬に触れた瞬間、ひやっとした。 徐々に、体温が移り、重なった部分が暖かくなる。 「春海、あたたかいね」 「ん?」 「気持ちいい…」 「あぁ…」 「春海の鼓動はやいね」 「…当たり前だろ。 ……好きな女、抱いてるんだ」 「えっ…」 「…逃げるなよ…」 「逃げないよ… もう、逃げない。…だって私の鼓動も速いもの。 春海が気付かないだけだよ」 『…ずっとこうしていよう…』本当に言いたい言葉は胸の奥に… 「今日は、もう帰れよ」 「…うん…」 重くたれ込めた雲から、ひらひらと雪が舞落ちる。 「雪… …積もるかな?」 「積もるといいな。そうすれば、ホワイトクリスマスだな…」 「今日は来てくれて、ありがとう」 |
ドリカムの有名な曲に寄せていただいたお話です。 いや、懐かしい。 95年ですよ。 この歌が主題歌だったドラマ、実は結構見てました(笑) 豊川悦司さんが耳の不自由な画家を演じていて 吉祥寺や井の頭公園がよく出てきましたね。 耳の聞こえる私と聞こえないあなたはそんなに違うの?というヒロインのせりふが いまだに忘れられません。 逢いたくて、ひとめ姿が見たくて東京までやってくる春海。 ほんの短い間でも いるかちゃんにとってはそれが何よりのクリスマスプレゼントだったことでしょう。 そばにいられることがあたりまえじゃなくて 本当はとっても幸せなことなんだってこと この二人はきっとかみしめていくんでしょうね。 これからも、ずっと。 背景には六段のいるかちゃんの家をイメージしたレンガに 雪が降っているものを選んでみました。 静かな住宅地にしんしんと積もっていく雪が そっと二人を隠してくれますように。 二人の間だけ、少し時間がゆっくり流れますように。 そんな願いを込めて。 青い空さん素敵なお話をありがとうございました♪ 水無瀬拝
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