LOVEはじめました 注意:この話を読む前に【ラヴ・コネクション】を読む事をお勧めします。 「どうしたんだ?その花?」 休日の昼下がり、リビングでくつろぐ鉄之介の目にサイドボードに飾られた花が目に 入った。 「お向かいの千葉さんに頂いたの、綺麗でしょ。」 胡蝶蘭だった。花にはそれほど詳しくないが、その花はわかる。 若き日の自分の姿が鉄之介の脳裏に浮かんだ… 「もしかして、思い出してる?」 妻、葵が鉄之介の座っていたソファーの隣に腰掛けた。 「忘れる訳ないさ、忘れる訳ないだろう…」 鉄之介の笑みに葵も笑みで返した。 「私もこの花頂いた時、思い出したわ。」 「葵…」 「鉄之介さん…」 鉄之介と葵…2人の頭の中は19年前の事を思い出していた… 19年前―――― 「鉄之介さん、ごめんなさい。お待たせして…」 初めての待ち合わせに30分の遅刻をしてしまった葵は恐縮して鉄之介に謝った。 昨夜、葵は中々寝付けなかった。何度も寝返りをうっては…明日、鉄之介に会えると 思えば眠れる訳なかった。あの日以来、葵の頭の中は鉄之介の事でいっぱいになって いた。 恋、愛…英語ならLOVE… 葵の鉄之介への気持ちは多分、恋なんだろう… 今まで、感じた事のない男性への気持ち…それをずっと考えていて、ようやく葵が眠 れたのは明け方だった…もちろん、そんな事言い訳にはならないが… 「無事来てくれて良かったです。気にしないで下さい。葵さんを待ってる間、自分 は、幸せでしたから…」 「幸せ…」 「いやっ…もちろん来てくれた今のほうが全然幸せです。」 鉄之介は赤くなった。葵もつられて赤くなった。 「車、こちらに止めていますので…」 葵は鉄之介の後を歩き、車の止められている所に向かった。 鉄之介の車は白い…白い…あまり車に詳しくない葵は車種名が分からなかった。 多分国産車だろう…と言う事ぐらいしか分からない… 葵は助手席の側を開けた…するとそこに…花束が置かれていた…これは蘭…胡蝶蘭… 「鉄之介さん…これは…」 「今日の日を記念に―――葵さんにプレゼントです。」 胡蝶蘭の花束をプレゼントされ葵はなんか…嬉しかった… 花束なんて…初めて…照れくさかったけど…感動もした。 胡蝶蘭を多分これから…今この時から私は一番好きな花と言うだろう… 「葵さん、じゃ行きましょうか、」 車に乗り込み、鉄之介が予約をしているという代官山のレストランに向かった。 葵は花束を宝物のように抱え、頬を赤らめていた… 「実は昨夜――――」 鉄之介が話始めた。 「実は昨夜…自分は良く眠れなかったんです。葵さんに会えると思うと緊張して眠れ なかったんです。」 「鉄之介さんも…」 「も…って葵さんも?」 葵は再び赤くなってしまった…それが返事、 二人とも赤くなり沈黙のまま車は走り続けた。 「着きました、ここです。」 車に乗って約30分、鉄之介が予約したというレストランに着いた。 店の名前は【カノビアーノ ヴィレッタ】イタリアンレストランらしい… 鉄之介にエスコートされ葵は店内に入った。 「予約していた如月です。」 「如月様、いらっしゃいませ、お席はこちらです。」 ボーイに案内され、2人は席に着いた。 鉄之介は車、葵は未成年と云う事もあり、ノンアルコールの飲み物をオーダーした。 注ぎ込まれたグラスを持った。 「じゃ…乾杯。」 「何に乾杯ですの、」 「今日の葵さんに…」 「鉄之介さん…」 そして2人は乾杯した。 次々料理が運ばれてくる。鉄之介が選んだだけあってどの料理も本当に美味しい。 鉄之介は色々な話をしてくれた、 外交官になって周った国での話。 大学時代の話。 趣味の話。 最近読んだ、本の事。 どれもこれも鉄之介の事をもっと知りたい葵には興味深い話だったが一番葵が興味 持った話は… 「倉鹿には父と妹が住んでるんですが…あっ母は2年前に他界してるんですが…その 父が息子の自分が云うのはなんですが…凄く頑固で、とんでもなくて、手がつけられ ないうつけ者で、妹がその父の血をそっくり受け継いでしまって…兄としては心配な んですよ!」 熱く語る鉄之介、一体どんなご家族なのかしら? 「でも…家族は大好きです。この年で父親と取っ組み合いの喧嘩が出来るなんて自分 ぐらいだと思うし…」 「素敵な家族ですね。」 「葵さんにそう云って貰えて、自分も幸せです。」 鉄之介の笑みに葵は確信した。 私は恋をしている…鉄之介さんに… 今日でまだ2回しか会ってないのに、恋してる事を確信してしまった… 私の恋はもうはじまっている…もう止められない… 1時間半ぐらい食事をして2人は店を出て、鉄之介の車で少し遠いが横浜港に行っ た。 季節は夏だったがその日は風が出てて少し肌寒かった。 遠くで汽笛が聴こえる… 葵はワンピースの上にピンクのボレロを着て腰までの髪を風に吹かれて鉄之介を見つ めていた。 また…会えるのかしら… 次の約束とか…した方が良いのかしら…でも女の私から言っていいのかしら… 「葵さん…」 鉄之介が葵の手を取って話始めた… 「まだ2回しか会ってないのに…自分の心の中は葵さんへの思いでいっぱいです。ま さか自分が世間で云う一目ぼれを経験するなんて思ってもいませんでした…」 「鉄之介さん…」 「自分は25歳です。今まで女性と付き合った事もあります。泣かせた事もありま す。自分も泣いた事もあります。でも…今まで、感じた事がない思いが自分の中にあ るんです。今までが恋なら自分の葵さんへの思いは…愛なんです。」 鉄之介に見つめられ、葵も鉄之介から目を離す事が出来なかった。 「愛と言う字は心を受け取ると書きます。自分の心を受け取って欲しいのは葵さんで す。自分の心を受けって頂けないでしょうか…」 鉄之介の言葉に葵はなんて答えて良いのか分からなかった。 凄く嬉しい…葵も同じ気持ちだ…胸がいっぱいでどう答えていいのか分からなかっ た… でも…言葉にしないと伝わらない…自分の思いも伝えなければ… 「鉄之介さん…私も…」 上手く言葉にならない…今の自分にはこれが精一杯… 「私の心も受け取ってくれますか…」 葵の頬を涙が伝った… 鉄之介は葵を抱き寄せた。まるで宝物を扱うように… 葵は思った、両親の猛反対を押し切って東京に来たのは、 この東京で、鉄之介に出会う為だったのだ… 結局、葵はこの日、寮には帰らなかった… ぞくに云う『朝帰り』…うーん,鉄之介は外見が良くて手が早かったらしい… 朝、鉄之介に寮前迄送ってもらい、葵は寮の塀を飛び越え無事、帰宅した。 寮の部屋に戻った葵を友人の小百合が待っていた。 「あ・お・い!朝帰りだね!」 小百合の冷やかしに葵は赤面してしまった。 「その花束は…情事を友にした鉄之介様から貰ったのだね、」 「胡蝶蘭!綺麗でしょ。どうしようかな、ずっと取って置きたいからドライフラワー にしようかな…」 小百合は葵に後ろから抱きつき、 「葵!胡蝶蘭の花言葉知ってる?」 「知らない。」 「『貴方を愛します』」 ア ナ タ ヲ ア イ シ マ ス 「鉄之介さん、胡蝶蘭の花言葉知っててプレゼントしてくれたの?」 再び―――如月家のリビング… 「今だから云うけど…花屋の店員さんに聞いて…」 19年立っても鉄之介は相変わらずの笑みを葵にくれる。 「いるかが小学生の時、夫婦喧嘩して、奈良の実家に迎えに来てくれた時も胡蝶蘭持 参だったわね。」 「俺の気持ちは19年前から全然変わってないよ。」 鉄之介は葵の肩に手をまわした… 「鉄之介さん…」 「葵…」 鉄之介は葵を抱き寄せた…そのまま――――――― 「かあちゃん、なんか食べ物ある―――」 愛娘・いるかが突然リビングに入って来たが…その目はすぐ点になった。 ソファーで両親が抱き合っているのだから… いるかは一言も話さず、一目散に階段を駆け上り、自分の部屋に戻ったようだ… 「まずかったかな〜」 鉄之介はバツが悪そうだ。 「アレでも…年頃のムスメですから…」 葵はため息をついた… 「そーだ!そーだ!アレでもいるかは年頃の娘だ…春海君…だって男だ…大丈夫だろ うか…いるかは…」 「鉄之介さん!?」 「いくら婚約しているとは云え、心配だ…」 「鉄之介さん!!」 「いるかはいつまでも少女でいて欲しい…」 「鉄之介さん!!!」 「私の1番大切な宝物なんだから…」 ブチッ! 葵の両手は鉄之介の胸座を掴んだ! 「葵!おい!どうしたんだ!」 そりゃ、わたしだっているかは可愛いわよ。貴方との愛の結晶だもの。でもでもでも 貴方の中ではいつでも私は1番じゃなきゃ嫌なの!私が貴方の中では一番なの!永遠 に―――― 下のリビングから母親の叫び声、父親の悲鳴が聞こえる。今度は何やってるんだ… 2Fの自分の部屋でいるかは呆れていた…が昔から変わらないであろう両親、云いた い事を言い合う両親を羨ましいとも思ってしまった。 私と春海はどんな夫婦になるんだろうか… ……と想像した瞬間、いるかはユデタコになった! この日の如月家の夫婦喧嘩はいつもにまして近所迄響いた… 怒鳴り声、割れる食器の音… 中でも、鉄之介の悲鳴は… いつまでもご近所の語りぐさとなりそうです。 Fin |
あきこさんの新作は前作の続きです。 葵さんと鉄之介さんはこんな風にしてお付合いをはじめたのですね〜 初回から30分遅刻とは、やっぱりいるかちゃんのお母さんだと思いました(笑) 一人娘に対してやや親馬鹿気味(笑)な鉄之介さんと好対照な葵さん。 ムスメって特別なものだけど、自分が一番っていつまでも言って欲しいよね♪ とはいえ語り草になるような悲鳴って……(笑) お二人さんいつまでもお幸せに♪ 胡蝶蘭ってよく結婚式のブーケにも使われますけど こんな花言葉だったのですね。 調べてみたところ「あなたを愛します」はピンクの胡蝶蘭の花言葉。 なので背景もそちらから選んでみました。 華やかな色とあでやかな存在感は葵さんに良く似合っていたと思います。 あなたは好きな人からもらうとしたらどんなお花がいいですか? あきこさん前作に続き照れちゃうお話をありがとうございました♪ 水無瀬 |