青い空さま作




夏の日





「うわーー 人だらけ」
海に着いての開口一番はそんな言葉だった。

お盆を過ぎたと言うのに、連日続く猛暑の中、
誰が言い出すともなく、海へ遊びに行く計画が持ち上がった。
ただ、東京近隣の海は人も多いだろうと容易に想像が出来たので、
少し離れた海岸まで足を延ばしたのだった。

朝が早かったからか、少し膨れっ面のかもめが、
「これじゃ、泳げないよ」とぼやく。

「とにかく、海の家でパラソルを借りて来るよ。
かもめ達は先に着替えを済ませておいて」

面倒見のいい琢磨が、いろいろ準備を整える。

いるかとかもめは、言葉とは裏腹に楽し気な様子で着替えに向かった。

「あっ、山本君、ありがとう。そこでいいよ」
春海も面倒見は良い方だが、琢磨の慣れた様子に、大人しく手を貸すだけにしていた。



「文句いいながらも、現金なものだな…」
少々ため息まじりに、春海は浜辺に走って行く少女達を見るともなく、眺めていた。

いるかたちと交代で着替えを済ませた二人は、パラソルの下で、休息をとっていた。

「でも、随分、大人しくなったんだよ」
少し笑いながら、琢磨が春海に話しかける。


目はかもめ達の姿を追う。今日のかもめは長い髪をポニーテールに、
いるかは少し伸びた髪を2つに別けくくっていた。


「中学の頃は、いるか一人で、あれ程の騒ぎだったから…
二人揃っていた頃は、相当なものだっただろうな」
想像するのは容易かった。

「そうだね、二人揃うと、向うところ敵無しって感じかな?
それで、僕も恐れられていたよ。
僕に手を出すと、二人からの報復が怖かったようだからね」


海水に腰まで浸かった、少女達はこちらの事はお構い無しに、口論の真っ最中だった。
怒っていたかと思うと、楽しそうに笑いあい、水しぶきを上げて駆けまわる。
キラキラとした夏の残りの光の中で、そこは別の空間のようだった。


「いるかちゃん、泳ぎ上手になったよね。
…ずっと、昔なんだけど、いるかちゃん泳げなかったんだよ」

知っていた?という風に、春海の顔を覗き込み、
琢磨は答えを見つけたように、つづけた。

「いるかちゃんに泳ぎ教えたの、山本君でしょ?」

春海は、少女達を目で追いながら、誇らし気な表情を浮かべた。


いるかが、水しぶきを上げずに滑らかに泳ぎ、その後を同じようにかもめが行く。


「小学2年だったかな?
ちょっとからかったら、本気で対抗してきて、あんな子はじめてだったよ」

過ぎた日を懐かしむ、二人の少年の瞳には、成長して行く二人の少女の姿が映ってい
た。

「実を言うとね、僕、はじめはどっちが好きかわからなかったんだ。
同じ顔、同じ声で、ずっと一緒にいた… 変かな?
かもめと二人になって、すぐにかもめの事好きだって気が付いたけど、
それまで、わからなかったんだ」


小麦色に焼けた肌に、パステルカラーの水着が映える。


「本当に似ているな。
あの二人、容姿だけじゃなく、性格も、負けず嫌いなところとか得に、
息もぴったりだし」
春海は軽く延びをしながら、

「でも、かもめの方が、少し面倒見がいいんだよ」
琢磨も、目で二人の少女の姿を追う。


少女達は、かなり遠くまで、泳いで行ってしまっていた。


「かもめに初めてあった時、嫌われてると思って、ちょっとショックだったな。
顔が似ているだけに、いるかに嫌われたような気がして…」
目を合わして、少し笑う。


そして、視線は自然に想い人へ映る。


二人の少女は、波打ち際を何か話しながら歩いていた。


気付いたのは、二人同時だった。
立ち上がったのも、タオルを手にとり二人に向って歩き始めたのも…


見知らぬ大学生風の男が二人、いるか達に近付いて来ていた。
馴れ馴れしく、肩に触れようとする、

「ねぇ、ねぇ、君たち双児? そっくりだね」

軽く手を払われたが、気にするふうもなく、無理矢理話しはじめる。

「さっきから見ていたけど、泳ぐの上手だね」
「そろそろ、お腹空かない? 何か食べに行こうよ」
「怪しい者じゃないよ。僕達、K大の学生なんだ」
有名私立大学の名前をだし、じりじりと近付く。

一人が手を延ばし、いるかの手を取ろうとした時、

「何かようですか?」
先に声をかけたのは、春海だった。いるかにタオルを被せる。

琢磨の方も、かもめにタオルをかけながら、
「僕達の連れなんですが」

自称大学生達は、不意をつかれ言い淀み、使い古された捨て台詞を放ち、
立ち去り際にもう一言、『ガキが…』と言った。

「少なくとも貴方達より、タッパはあると思いますが」
かもめを庇いながら、さわやかな声で琢磨は言った。



「ったく、目が離せないな」

苦笑ぎみの少年達を横目に、少女達は色気より食い気。
食堂のメニューを腹に納める。

軽く、三人分は食べた頃、
「ふぅーー 今日は、良く泳いだから、お腹空いてたんだよね」

人心地ついたように、満面の笑みで、いるかは言った。

「でも、さっきの二人、気持ち悪かったねーー 『さっきから見てた』とか言ってた
よ」
「って、より、双児と間違えてたし!」

そこまで、似てないよねーーー とばかりに、話をする。

気付かないのが二人の長所か、短所か、
いるか達を追っていた視線は、軽く両手を超えていたであろう。



今度は4人で午後の一泳ぎを楽しみながら、たわいのない話を繰り返す。

水しぶきをあげ、この夏の最後の海を満喫しながら…



帰り支度をしていると、またしても、いるかとかもめの口喧嘩が聞こえた。
今後は、こちらに近付いて来ているので、会話が聞こえて来た。

「なんだよ! ムネ小さいくせに」
「人の事言えるのか!」
「かもめのおばちゃんより、私のかーちゃんの方がムネ大きいもん!
だから、私だってそのうち!」
「そんなのいつのことか、わからないじゃん」

二人の喧嘩を横目に、少年達は頭を抱えたい思いで、
「いつもこんな調子だったのか?」
「うん、だいたいね。
でも、いるかちゃん、将来楽しみみたいだね」
笑いを含んだ琢磨の声

「身長は私の方が勝ってるんだ! そのうち、ムネだって!」

「そっちこそ」
二人の少年の馬鹿笑いが、少女達の口喧嘩を遮り、その大きな目をより大きくさせた。



あどけなさの残った顔だち、歯に衣着せぬ言葉遣い、思ったままそのままの素直さ。
いつまでも、そのままで…



いやー私琢磨くんの事も好きみたいです(笑)
はねっかえりの女の子に振り回されているようで実はしっかり主導権を握っているという感じが
なんともほほえましいです。
強がってる男の子たちが多い中で
堂々と「弱虫」でいられることはある意味幸せなのかも。
頼りにし、頼りにされ、この二人(カモタク(笑))って実にいいコンビです。

背景はすいすいと泳ぎ回るかもめちゃんといるかちゃんを想像して
色違いでそっくりな金魚を選んでみました。
尾びれのひらひらは二人の水着かなー(笑)
そこまで似てないよねーってそっくりな顔でまじめに言い合う二人がなんだかおかしくなっちゃいます。

熱い視線(笑)をものともせずしっかり夏の日を堪能している二人。
かわいいですよね〜
青い空さん素敵なお話をありがとうございました♪

水無瀬拝

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