青い空さま作




Sweet Sweet




今日は、女子の達の決戦の日。
St.VALENTINE DAY…

男子も女子も浮き足立ち、密かに甘いチョコが行き来する。



「いるかちゃん、山本君にはもう渡したの?」
朝から何度も聞かれた言葉に、いるかは『まだ』と同じ答えを返す。

今さら、チョコでもない。

そんな思いはあるが、気持ちは通っていても、それに甘えてばかりもいられない。

昨日のかもめとの電話、彼女もそんな事を言っていた。

特別な人には特別を…
いるかとかもめはこの日の為に、二人でお互いの試食に時間をあてていた。
ラッピングも不器用ではあるが、まぁまぁ、見れるものが出来るようにはなった。

問題はいつ渡すか、どこで渡すか…
当日、春海の周りにはいつも女の子がいることが予想された。
一人になる時間、二人でいても大丈夫な場所。二人でいることが自然な場所。

『生徒会室』しかないかな… (でも今日は会議ないって…)

心持ち緊張する。
春海なら、会議がなくても生徒会室に行くかもしれない…
いるかは、そんな事を考えながら、一日を過ごしていた。



ーーー放課後、生徒会室
「春海いる?」
「いるか…」
そこに彼はいた。
積み上げられた、書類の前に座り、目を通していた。

いるかの姿を見つけ、立ち上がる。


「あれ? 春海、今年は少ない?」
いるかの目に止ったのは、大きな紙袋一つにぎっしり入った、色とりどりのかわいら
しいラッピングを施された、チョコレート達。

段ボール箱数個は貰っていると思っていたいるかは、少し驚いた声をあげる。

「あぁ、『受け取るだけでいいから』っていうのしか貰ってないから…
返せる分は全部返したし」

「えっ、何で?」

「何でって、当たり前だろ。貰う理由もないし、…」
少し怒ったような口調。

「お前の方は?」
「先生に箱を用意してもらってるんだ」
へっへっへっと嬉しそうに笑いながら答える。

春海は、一つため息をつき、
「相変わらずだな…
でも、前は何故チョコごときで大騒ぎするのか不思議だったけど、わかったような気
がするな。
こんな、些細な事でも一喜一憂する皆の気持ちが…」

『帰りに運ぶの手伝ってやるよ』いつも、彼女にだけ向ける微笑み。

「あのね、春海…」
いるかはきょろきょろと当たりを見渡し、
机にもたれるように立つ春海に近付く、一瞬の出来事だった。

『いつも、ありがと』
そう言いながら爪先立ちになり、彼女の唇が彼の口元に軽くあたる。
触れるか触れないか…
春海の寄り掛かる机の上に、小さな包みを残し、風のように走り去る。



「おっ、いるか。なんか機嫌よさそうだな。」

廊下ですれ違った巧巳にからかわれるが、気にする様子もなく、満面の笑みで答える。

「まあね。あっ、巧巳にはこれ!」

巧巳は毒気を抜かれたように、
市販されている小さな包みを受け取る。

「こんな明らかに義理チョコなんか寄越すなよな…」

呟く言葉は彼女の背中にも届かない…



いるかと別れた巧巳が生徒会室の前を通ると、
中からけたたましく何かが崩れる音がした。

「なんだ、何かあったのか?」

慌てて、ドアを開け中に入る。
巧巳の目に入ったのは、…物に埋もれる春海。

「イヤ… ちょっと… バランスを崩して…」

決まり悪そうに笑う春海に、手を貸しながら、

「何やってンだよ。お前は」



そこに転がった、不器用にラッピングされたチョコレート。
今年もミルクたっぷりの、甘いチョコ。




このお話は「春海のたくらみ」内の「夢魔」と
二つ一緒に、とのことでしたので
背景をそろえて色違いにしてみました。

このお話では背景の二人の姿が
まるでチョコレートの像のように見えるのに
「たくらみ」では・・・?

やっぱり今年も いるかちゃんの手作りチョコは
ミルクたっぷりめのハート型なんでしょうか。
でもってプラスアルファのおまけ!?もついてきて
春海くんてば腰抜かしてるんでしょうか(笑)。
彼のことだから
いるかちゃんがくれなくても
自分から奪いに行くつもりだっただろうなとは
思うんですが(笑)

今回もかわいいお話をありがとうございました。

水無瀬


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