じんさま作



‘わたしの’春海?




「校内球技オリンピック」

春に行われる陸上オリンピック、年明けの武道オリンピックと並ぶ、
倉鹿修学院の三大年中行事の一つである。

競技は、サッカー、バスケ、バレーボールの三種目から、各自が一種目選択し、クラス対抗で争われる。
ただし、所属クラブが三種目のいずれかにあたる者は、それ以外の種目から選ばなければならない。

当然、活躍が期待される鹿鳴会メンバーたち。
男子サッカー部の進と、最近になって女子サッカー部に入部したいるかに合わせて、
五人はそろってバスケを選択していた。
それぞれのクラスから出場し、真っ向から勝負しようというわけだ。
もっとも、競技は男子と女子に分かれて行われるため、いるかと他メンバーの対戦はあり得ない。

「ちぇっ、男子も女子も、分けることないのに!」
「はは・・・いやあ、まったく残念だなあ・・・」

いるかは不服そうにふくれていたが、横で苦笑いする男性陣は心底ホッとしていた。



―――大会当日

「お前、ルールわかってやってるか?」
「ん?湊に大ざっぱなところは聞いたんだけど・・・なんか違ってる?」
「いや、いいんじゃないか?誰もお前のドリブル止めるヤツなんかいないみたいだしな・・・」
「なんだよお、ほめてんの、けなしてんの、どっちなの?」

いるかと春海はトーナメント表の貼リ出された掲示板の前に来ていた。
雪組は、男子、女子とも順調に準々決勝まで勝ちあがっている。

「おーい、いるか!春海!」
「あっ、進!星組どう?」
「まだ勝ち進んでるぜ。そっちは?・・・まあ聞くまでもないか」
「あったぼうよ!男子もすごかったんだよねー、春海」
「ああ、快勝だ」
「そうすると・・・げ〜、次はお前らのところとだよ。まいったな・・・」
「あ〜あ、進と試合したかったなー」
「冗談よせよな、春海一人でも十分手強いってのにさ」

勝ったクラスの赤いマーカーをたどりながら、いるかは残念そう口を尖らせた。

「あれ、いま月組と松組やってる?一馬と兵衛の対決じゃん。」
「・・・向こうのコートみたいだな。行ってみようぜ!」
「うん!」

進に促され、歓声のあがる方へ向かおうとするいるかを春海が軽く引き止めて言った。

「悪い、その前に俺ちょっと大会本部に行ってくるよ。先行っててくれ」

春海は先ほどからしきりにタイムスケジュールの遅れを気にしていた。
仕切りは実行委員に任せてあるのだが、どうもこういうことは放っておけないのだ。
会長の性というやつだろうか。

「ん、分かった。早くね!」

同じ会長でも、そんなことはまるで気に留めることのないいるかは、
待ちきれない様子でそう言って駆け出して行った。



「お、大接戦だぜ。しかしすごい人だかりだな・・・おい、いるか!大丈夫か?」

鹿鳴会メンバーの直接対決とあって、目的の試合が行われているコートは
四方を観衆に埋め尽くされていた。

「いてて、わーん、全然見えないよー」

人垣を乗り越えんばかりの勢いで、ぴょんぴょん飛び上がっていたいるかだったが、
視界を確保するどころか、そのうち人混みの中で潰されそうになり、
慌てて元の位置まで這い出てきたところだった。

「ぷっクックッ・・・だろうなぁ」
(ゴンッ)
「ってー・・・悪かったよ。・・・あ〜、背中お貸ししましょうか?」
「へっ?」
「おぶさってもいーぜ」
「ホント?やったあ!・・・わっ、見えた見えた!」

いささか興奮気味のいるかは、照れもせず進の背中によじ登ると、
身を乗り出して騒いでいる。

「おい、いるか、あんまり暴れるなよ!」
「あ、えへへ、ゴメンゴメン・・・」

コートでは、一馬と兵衛がシュートを決めるたび、女の子たちの黄色い声が飛びかっていた。

「へぇー、一馬も兵衛も意外と人気あるんだ」
「おいおい、意外とはないだろう。そりゃあ、‘お前の’春海には敵わないけどな・・・」
「なっ!なんでそこで春海が・・・」



・・・顔に何か書いてあるんだろうか。
何気なく言ったことだったが、確かにいるかの頭には春海の顔があった。

さっき見ていた雪組男子の試合。
春海はこれよりずっと大きな歓声を浴びながら、颯爽とコートを駆け回っていた。

まわりの女の子達の熱狂に刺激されたわけではないけれど、
いつの間にか、いるかも彼の姿にほうっと見惚れてしまっていた。
応援の声をあげるのも忘れ、ボールの行方ではなく、
春海の動きを目で追っていた・・・。

ピィーッ!
試合終了の笛の音にハッとして、スコアをみる。大勝だった。
勝利に沸く周りの声につられて喜んでいるうちに、
気がつくと・・・チームのヒーローが自分の目の前にいた。

「・・・何だよ、俺の顔に何かついてるか?」
春海があたしの頭にポンっと手を置いて言う。

「べ、べつに!」
何でもないことなんだけど、いつものことなんだけど、
・・・今日は何だかドキドキした。



「俺がどうしたって?」
「わっ!」
「あれ、春海、早かったな。・・・いるかが全然見えないっていうからさ。
・・・かわってくれよ。お前のほうが背高いんだから」
「えっ、いいよ!十分見えるし・・・」

かわる?春海に?やだよそんな・・・恥ずかしい。
・・・あれ?進なら平気なのにな・・・。

ちらりと春海のほうを見ると、
心なしか憮然とした面持ちでこちらを見ている彼と視線が合った。
途端に顔がカアーッと熱くなる。
急にいろんなことが照れくさく思えて。
今のこの状況も。さっき進に指摘され思いめぐらしたことも。

「でも俺、春海の恨み買うのはゴメンだぜ・・・」
ひとり言のように進は言って、いるかを下におろした。

「へっ?」
「いや、そろそろ、クラスの連中のところに戻るよ。
次の試合はどうやら作戦会議の必要がありそうだからね。じゃあ、また後でな」

まだ顔の赤いいるかと、ほんのわずかに頬を染めた春海を残して、
進はさっさと行ってしまった。

「・・・」
「・・・」
「・・・俺達もそろそろ行くか」
「う、うん。そーだね」

やだな・・・何だろ、このぎこちない空気・・・。
会話のないまま並んで歩く。


「いるかちゃーん、もうすぐ試合始まるよ〜」
しばらく行くと、遠くで湊が手を振るのが見えた。

「あ、うん、今行くー!」
彼女の声に助けられ、ようやくいるかは我にかえった。

「じゃあね、春海、また後でね!」
「ああ、その辺で見てるぜ」


・・・ほんの少し、お互いを意識した、初秋の頃。


(おわり)


じんさんの待ちに待った第二作目です。
そう、そうですよ!
校内オリンピックは三つあったのに原作で描かれていたのは二つだけ!
じんさん、最後の一つを書いてくださってありがとうございました〜
鹿鳴会のメンバーがみんなかっこいいなぁ。
一緒になって雪組や星組を応援しているみたいに臨場感があって、ドキドキしちゃいました♪
それにしても、さっきまでの「ヒーロー」がイキナリ目の前に現れるって・・・
ちょっといるかちゃんがうらやましい♪
ああ、私も修学院に入学したかった(笑)・・・!

壁紙の赤い紐は二人を結ぶ赤い糸兼勝ち進んでいく組の赤いラインをイメージしてみました。
初秋の花、菊も倉鹿らしくちょっと和風で。
さて、男子準決勝は雪組が勝ったのかな、星組が勝ったのかな?
じんさん ありがとうございました♪
水無瀬


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