蜂蜜色をした液体はその親しげな色合いを裏切るように喉を焼く。
グラスに少し注いで、いるかの顔に近づける。
「ん・・・・」
少し顔をしかめて横を向いた。
まだだめか・・・
ほんの少し口に含んでかすかに開いた唇のあいだからそっと飲ませる。
効き目は確かだ。
頬に少し血の気がさしてきた。
「ん・・・あれ、あたし・・・?」
「気がついたか。」
「春海?なんで・・・ちょっとっ!なんで・・・」
「しかたないだろ、あの格好のままじゃおれもおまえも風邪ひくじゃないか。」
「だっ・・・だからって!!!」
「着替えの場所はわからないし、おまえは気を失ってるし。」
「・・・・」
「床の上に転がしとくわけにもいかないだろ」
「・・・・」
頭まですっぽり毛布をかぶって、いるかは春海に背を向ける。
その様子がすねている子供のようで思わず笑みがこぼれる。
惜しげもなくシーツに広がるヘイゼル色の髪を梳いて、目尻にそっとキスをした。
やっとこちらを向く。
どうして彼女から離れることができると一瞬でも思ったのか、自分が信じられない。
ほんの少し頬を染めて自分を見つめるさまも
大きな瞳が夢見がちに潤むのも
血の気を取り戻した唇が開きかけた花のように微笑をこぼすさまも
こんなに愛しいものなのに。
古くは、EAU DE VIE―――命の水とも
ELIXIR―――若さを永遠に保つという水とも。
海を渡り今この部屋で封を切られた液体。
秘中の秘とされる薬草は130種入っているとされるが
その内容を知っているものは修道士ほんの数名だけ。
けれどこの香りには確かに気を失った人間を気づかせ
血の気の引いた頬に赤みを取り戻す効果がある。
「・・・それで、返事は・・・?」
いつになく不安げな声。
私の答えなどずっと前から決まっている―――
「・・・はい・・・」
もう一口、その火を籠めたような液体を口に含む。
半分は自分に、そして半分を彼女に。
今しがた彼女の口からこぼれた言葉が消えてしまわないうちに。
死が二人を分かつまで―――
何があっても離れない―――
命の水は喉を炎のごとく通り
身体に内側から火をつけていく。
新たな命を吹き込むように。
密やかな儀式は二人以外の誰に知られることもなく
蜜色の時間だけが過ぎていく。