「やっぱり、いい・・。」
ある秋の日の午後、春海は生徒会室で悩ましげなため息をひとつ吐いた。
彼の手にはいるかの写真が握られていた。

海外に赴任中の両親の元へ遊びに行った時の写真のようだ。
写真の中では、のどかな果樹園をバックに純白のレースのワンピースを着たいるかが微笑んでいた。
その細い腰には深紅の細いサッシュが巻かれている。
まるで映画のヒロインみたいだ・・春海はあらたに湧き出した感激を抑えるようにその写真を抱きしめ、しばらく固まっていた。

ふと、春海の脳裏にひとつの考えがひらめいた。
彼女への思いをつづり、書き残しておくのだ。
そして・・2人のこどもが生まれたとき、青春時代の輝きを振り返る・・そんなすばらしい考えだった。
春海はさっそくペンをとった。



☆いるヨロ通信 創刊号☆


☆1.創刊の趣旨 いるかの全てを知る
☆2.いるヨロ写真館 (1)果樹園といるか
☆3.今月のぽえむ りんごのうた 
(しいなりんご/さくし・さっきょく・うた はっとりたかゆき/へんきょく)

☆4.短編小説 いるか頭巾ちゃんとぼく

いるかちゃんはのどかな村に住む美しい女の子。
いつもピンク色のいるかの帽子をかぶっていることからいるか頭巾ちゃんと呼ばれています。

ある日、いるか頭巾ちゃんは別の村に住む病気のおばあさんに焼き立てのパンを届けに行きます。
途中でいるか頭巾ちゃんを見かけ、人目のない所で食べたいと思った狼はやさしげに話しかけます。

「いるかちゃん、どうしたの?道に迷ってしまったの?」
「ううん。大丈夫よ狼さん。あたしおばあさんちへ行くの。」
「げへへ。ぼくがついていってあげるよ。こんな暗い森を娘さんがひとりでは危ないからね。」
「あんたがついてくるほうが100倍危ないよ!」
「ぐほーっ!ナイスパンチ・・。生娘にしておくのは惜しい・・。」
「生娘は関係ないだろ!」

いるか頭巾ちゃんはぷんぷん怒って行ってしまいました。
しかし行き先を聞き出した狼はおばあさんの家に先回りします。
そして日本刀を振り回して応戦するおばあさんと大立ち回りの末、勝利した狼はおばあさんを食べてしまいました。
これで狼は如月流の正統な後継者としての地位を手に入れました。

おばあさんになりすましてベッドの中で待ち構えていると、いるか頭巾ちゃんがかわいくドアをノックする音が聞こえました。
狼はおばあさんの声色をつかっているか頭巾ちゃんを家の中に招き入れます。

「おばあちゃん。お風邪大丈夫?」
「ああ。寒い。寒い。」
「あら!いるかが火を起こしてあげる!」
「・・・。もう薪がないんだよ。」
「あら!じゃ、いるかが拾ってきてあげる!」
「ああーっ!!寒くて死にそうじゃ。そうだ、いるか頭巾ちゃんや。おばあちゃんと一緒に寝てくれないかい?」
「ええー。でもおばあちゃん臭いし・・。」
「そ、そんな。・・このばばの最後のお願いじゃ。」
「しかたないなぁ。じゃ、ちょっとだけ・・。」
「おやおや!どんな躾をされているのやら。ベッドに入るときは着物を脱ぐものだよ!」
「ええーこの寒いのに・・しょうがないなぁ。」

狼はニンマリと微笑みながらベッドの中で待ち構えています。
そして安心しきっているいるか頭巾ちゃんを食べてしまいました。

・・・ここまで書くと、春海はしばらく考え込んだ。

「・・どうしようかな。
ばあさんになっているか頭巾ちゃんをその場でいただいちまうか、
それとも猟師に扮して助け出してからいただくか・・悩むぜ。」

春海はしばらく悩んでいたが、結局伝統的なラストシーンでしめることにした。

・・・そして2人は結婚し、幸せに暮らしました。めでたしめでたし・・・。

☆5.編集後記 いるヨロ通信 創刊号お楽しみいただけたでしょうか?まだまだ彼女の魅力の一部しか紹介できていませんが、これからどんどん充実させていきます。応援ヨロシク!(創刊号編集長 シャチ)
☆6.次号予告 クリスマス緊急特集号 短編よみきり「夢色のイルミネーション」 掲載予定




春海はそこまで書くと筆を置き、一息いれるためおやつの林檎を剥き始めた。
すると、突然生徒会室のドアが開いた。
「あ〜!!春海ったらひとりでずるいよ!」

春海は原稿を大急ぎでかき集め、覆いかぶさりながら返事をした。
「お、おまえのために剥いてたんだよ!そろそろ来る頃だと思ってさ。」
「じゃ、もらおうかな。・・なにそれ?」
「え?こ、これは今期の予算の資料だよ!整理しておいたぜ。」

そう言うと、春海の予想通りいるかはまったく興味を示さずそっぽを向いた。
彼女の両手にはすでに林檎がふた切れ握られていた。
「へーありがと。・・春海は?食べないの?」
「いや、全部食っていいぜ。」
春海は期待をこめた眼差しでいるかを情熱的に見つめていた。
最後の一切れが彼女の口に収まると、彼は満足げに口の端を上げた。


昇降口を出てふと空を眺めると、秋の夕日はだいぶ傾いていた。
春海は先ほどのぽえむに節をつけて小さな声で歌った。
「・・・<めしませ つみのかじつ>〜。」
「え?それなんの歌?」

いるかは不思議そうな顔で春海を見上げた。
春海が歌を口ずさむことなどめったになかったが、最近よくこの歌を歌っている。
いくら聞いても題名を教えてくれないが・・どうもいるかにおやつをあたえた後歌っているようだった。
春海は歌をやめ、彼女の顔色をじっと見守りながら言った。

「いや・・効いてきたか?」
「え?なにが?」
「(・・・。ちっまたはずれか。あのばあさんめ・・。)」
「なに?どうしたの?」
「いや・・家まで送るよ。」

どうやら今回のミッションも失敗のようだった。
彼らの後ろには、小さな影と狼のような鋭い耳とふさふさとしたしっぽをもつ影が長く伸びていた。
2人は校門を後にすると、家路を急いだ。

<おしまい>