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海と空とみんなと @





「正美ね、一時退院できることになったの。」

いるかと春海、徹、巧巳は手術後の経過も順調な正美のお見舞いに来ていた。夏休みも終わり間近、そろそろ新学期の足音も聞こえてきそうな時分である。
「やったじゃない、正美ちゃん!」
徹は本人よりも嬉しそうな顔をする。
「よかったな、正美。」
「うん。これで新学期から学校に行けるの。
経過がよかったらあと一回検査で入院すればいいだけみたい。」
「ほんと、よかったね。」
いるかもほっとしたように言う。
「いつ退院できるの?」
春海がきく。
「あさって。・・・だから四日間だけ夏休みなの。」
正美は何か言いたそうにしている。
「そっか・・・じゃどこか遊びに行く?」
すかさずいるかが訊く。
正美はその言葉を待っていたように
「正美ね、海に行きたいの!海で泳いでみたいの!」
と言った。
「いいね、一緒に行こうよ!僕、泳ぎなら教えてあげるよ!」
徹が言う。
しかし春海と巧巳の二人は顔を見合わせている。
「・・・海っても、八月末だしなぁ・・・」
「うん・・・この辺じゃそろそろ泳げないんじゃないか?」
「そうだよな・・・」
二人とも困ってしまっている。

「・・・正美ちゃん、飛行機乗れる?」
出し抜けにいるかが訊いた。
「うん、のれるけど・・・」
訝しげに正美が答える。
「じゃ、ちょっと待ってて。」
そう言い残しているかは病室をあとにする。
残された四人は何のことかわからず首をかしげている。

 しばらくして、嬉しさを隠しきれない様子でいるかが帰ってきた。
「正美ちゃん、沖縄に行こう!」
「え?!?!?」
四人が同時に言う。
「沖縄。飛行機で行けば二時間半くらいだよ。あそこの海ならまだ泳げるもん。」
「お・・おい、いるか?」
「みんなで行かない?
正美ちゃんも徹くんも、春海も巧巳も。」
「・・・いきたい!」
「僕も!」
幼い二人はすっかりその気になっていた。
「いるか?」
春海が訳がわからないといったふうに問う。
「あたしはしばらく行ってないんだけど、沖縄にウチの別荘があるの。
時々とーちゃんたちが誰かよんだりして仕事に使ってるみたいだけど、
ここんとこは誰も来ないらしいよ。
さっき確かめてきた。
あそこなら、すぐ前が海だし風は気持ちいいし、みんなで行こうよ?!」
「・・・いいのか?」
巧巳がまだ心配そうに尋ねる。
「もっちろん!巧巳も春海も今日で練習終わりでしょ?
あたしも新学期まで何の予定もないし、ね?」
「お兄ちゃん・・・ダメ?」
徹が春海の顔をのぞきこんでたずねる。
春海もついに仕方ないな、といった顔で
「じゃ、みんなでお世話になろうか。」
といった。
「やったね!決まり!」
「いるかちゃん、ありがとう!」
「正美ちゃんよかったね!」
春海と巧巳は嬉しそうな弟たちを見て優しげに微笑んでいた。
「じゃ、あたしまた電話してくるね。
出発は退院の翌日!いい?」
「うんっ!」
いるかは再び病室を出て電話をかけに行く。

「あいつんちって・・・何やってんの?」
巧巳はそっと春海に聞く。
「・・・父親は外務官僚、じーさんは倉鹿修学院の院長。」
「修学院って・・・おまえたちが通ってた?」
「ああ。」
「ふーん・・・意外だったな・・・」
春海は何も答えない。
春海自身も、はじめているかの口から父親の仕事を聞いたときは正直驚いた。
一方、妙に納得もしたものだった。
口が悪くて喧嘩早くて、
サボることと食べることばかり考えているようないるかだったが
中二の夏、きちんと浴衣を着て背筋を伸ばし正座するいるかの姿に
春海はどこか育ちのよさを感じていた。

 正美が退院した翌日、
羽田に集合した5人は沖縄の空目指して旅立った――――。




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