funny valentine 2





・・・油断した。


去年は誰からももらわなかったから、今年も平気だろうと思っていたのに。
思い出すのは修学院の、中学二年の冬。
電信柱の影で待ち伏せされる、校門の前で渡される、
下駄箱にはあふれんばかりの「それ」が詰まっている・・・

「あの・・・如月先輩、・・・」

「副会長、これ受け取ってください!」

廊下を歩くたび誰かから声をかけられる。
たいてい一年生。

「しょうがないわよねぇ・・・うちの中等部って男女別だし。」
ため息混じりに晶がつぶやく。
「あたしもけっこうもらったけどさ、あんたには負けるね。」
「まあ、いいじゃないの。いるかちゃん、チョコレートすきでしょ?」

クラスメートたちは思い思い勝手なことを言う。

冗談じゃない。
受け取れないよ。

あたしなんかにこんなきれいなチョコレートを手作りするくらいなら何で男の子に渡さないのよ。
ああ、ますます自己嫌悪に陥るじゃない。
何でみんなこんな器用なのよ。

「にしても不毛よね。いるかちゃんには山本君がいるのにねぇ。」
「それとこれとは別なのよ。アイドルと一緒じゃない?」
「いや、あんたたち付き合ってると思われてないかもよ。」
「だよねぇ、なんか男同士みたいな雰囲気だもんね・・・」

・・・結構気にしてるのに。

きれいないろのラッピングにきらきらしたリボン。
お店の包みもあるけど、自分で包んだってわかるものもある。
いっそのこと、この中のひとつをあげちゃおうか。
そのほうがずっときれいだしおいしそうだもんね。

・・・ダメダメ。
絶対ばれる。
大体何のために家族に呆れられながら何度も練習したと思ってるのよ。
いい加減試食にうんざりしている両親もお手伝いさんも
かもめも琢磨も、なんだかんだいって応援してくれてたんだから。
それに・・・そんなに悪くないと思う。今年のは。

「・・・なにひとりでににやけてんのよ。」
「気持ちわりーなぁ。今日の練習ちゃんと出れんのか?」
「・・・でれるよっ!」
頬杖をついて憮然としたいるかの表情に
悪いとは思いつつもこみ上げてくる笑いをこらえ切れない女友達。

「・・いるかちゃん?どこ行くの。もう次の授業始まるよ。」
「お手洗い!」
「そんな大声で・・・」

「あ、あのー…如月副会長・・・」

・・・ああ、もういい加減にしてほしい・・・

「あのね、あたしは好きな人がいるの!」

振り向きざま、ちょっと大きな声を出してしまった。
見ると、自分より小柄な女の子が胸に可愛い箱を抱えている。

「えぇっ、まさかあの噂ほんとだったんですかぁ?」

「・・・噂って?」
「山本会長とお二人で駆け落ちしたことがあるとか、お見合いしたとか、婚約したとか、
うそみたいな話だからお二人が付き合っているって言うのも
絶対デマだろうって思ってたんです・・・」

女生徒は泣きそうだった。

うそみたいな話、か・・・
でも、それ、ほとんど合ってるんだよ・・・とは言えない。

今にも涙がこぼれそうな顔にさすがに気がとがめて優しく肩に手をかける。

「ごめん、だからね、あたしチョコレートはもらえないよ。」
「はっはい!わかりました・・・」
「ほら、もう授業始まるよ。」
「すみませんでした!お幸せに!」

・・・お幸せに・・・?

そんな、結婚式のときみたいな・・・
そこまで考えているかは急に頬が火照るのを感じた。

「お前・・・こんなとこで何やってんだ。」

「え・・・う、うわぁっっっ!はるうみっ!」
「廊下で大声出すなよ。・・・たく何動揺してんだ。」
「あ、あの・・・」
「ほら、もう行けよ授業始まるぞ。」
「あ、うん。じゃあね。」
「あ、いるか。」
「ん?」
「今日・・・六時ころには帰れると思うから。」
「うん。わかってる。まってるよ。」
「じゃあまたな。」
「うん。」


まってる、か―――


今日一日のこととわかっても、口元が緩むのを隠せない。
部活を早々に引き上げた春海は一人いつもと違う方面の電車に乗った。
頼んでおいたものが今日の午後、できてくるはずだった。

 
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